ネットロアをめぐる冒険

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日本人は恋愛に受身なのか、ここテストに出るぞー

結婚しない人が増えているなんて話題がありますが、今回は内閣府の調査が話題になっています。

this.kiji.is

日本と欧州4カ国の男女の結婚観などを聞いた国際意識調査の結果を内閣府が発表し、恋愛については「「相手からアプローチがあれば考える」と答えた人が日本では34.9%で」「欧州に比べて受け身の姿勢が強い傾向が浮き彫りになった」とのこと。

 

それにしてもずいぶんそっけない書き方で、調査名すら記載をされていないところがいかがかなと思いましたので、もう少し詳細を本記事で掲載できればと思います。

 

 

***

 

各新聞の報道について

この調査は、内閣府が5年ごとに実施をしている「少子化社会に関する国際意識調査報告書」の平成27年版です。

 

平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書【全体版】(PDF形式) - 少子化対策:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

 

基本的に、多くのメディアは共同の記事をそのまま配信しているだけです*1。なので、共同の「日本の男女は恋愛に受身である」という結果のみがクローズアップされます。

 

これに、他の結果も付け加えたのが、日本経済新聞・佐賀新聞・夕刊フジのzakzakです。

www.nikkei.com

www.saga-s.co.jp

www.zakzak.co.jp

 

日経と佐賀新聞は同内容、zakzakは日経らの内容の一部を盛り込んだ形です。日経・佐賀両紙に「共同」のクレジットがあるので、詳報という形で共同通信が再配信した記事を使用したのかもしれません。佐賀新聞は自前のグラフまで作って、ちょっと積極的な報道です。

 

上記3紙は、アプローチ云々の話に加え、日本は交際相手との結婚を考える割合がトップだったこと、独身者が結婚しない理由で「適当な相手に巡り合わない」「経済的に余裕がない」ということがあること、交際相手との出会う方法で「婚活サイトやSNSの利用」が他国に比べかなり低いことが述べられています。

 

いずれにせよ、各社の姿勢としては、「日本人は恋愛に受身」というコンテキストが今回の報道のメイン事項であることは間違いないです。

 

国際意識調査の変遷

この調査はもちろん「少子化」に関する調査なので、恋愛や結婚観だけでなく、育児やライフワークバランスなどの設問も存在します。しかしなぜ、この「恋愛に受身」が大きく取り上げられたのでしょう。

 

前述しましたが、この調査は5年ごとに行っており、1回目は平成17年度、2回目は平成22年度の調査になります。

 

平成17年度 少子化社会に関する国際意識調査 全体版目次(PDF) - 少子化対策:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

 

平成22年度少子化社会に関する国際意識調査報告書【全体版】(PDF形式) - 少子化対策:政策統括官(共生社会政策担当) - 内閣府

 

この2回に関しては、対象国が「アメリカ・フランス・スウェーデン・韓国」と日本の5カ国です。3回目の今回の調査が「イギリス・フランス・スウェーデン」と日本の4カ国に変わっているのはなんでなんでしょうね。

 

また、調査項目を大きく分けると、以下のような違いが見られます(*数字は第○回目を表す)。

 

交際について(③)

・結婚について(①②③)

・出産について(①②③)

・育児について(①②③)

・ワーク・ライフ・バランスについて(②③)

・社会的支援について(①②③)

・生活意識について(②③)

 

つまり、今回の「交際」という、個人の恋愛に関する調査は、この3回目に初めて取り入れられたわけです。他の項目について、著しい変化がなかったことを考えると*2、この新設された項の結果はニュース性がありますね。

 

日本人は恋愛に受身なのか?

さあ、ではこの「交際について」という項目の結果は、果たして報道の通りと捉えていいのでしょうか。

 

実際の設問はこんな感じです。

 

I 交際について
交際に対するあなたの考え方についてお聞きします。
【全員に】
問1〔カード1〕まず、恋愛に関するあなたの考えについて、この中から当てはまるものをいくつでもお選びください。(M.A.)

①恋愛よりも勉強や仕事を優先したい
②恋愛よりも趣味を優先したい
③交際をすると相手との結婚を考える
④それほど好きではない人とも恋愛や交際をしてもかまわない
⑤いつも恋愛をしていたい
⑥気になる相手には自分から積極的にアプローチをする
⑦相手からアプローチがあれば考える
⑧交際することで人生が豊かになる
⑨恋愛は面倒だと感じる
⑩恋愛することに自信がない
⑪恋愛はしたいが、お金がかかる
⑫その他
⑬わからない

*3

 

日本のメディアはこの設問の「⑥気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」「⑦相手からアプローチがあれば考える」のみを取り上げたわけです。確かに、⑥に関しては20%、⑦は34.9%と、他3カ国と比べると、逆転現象が起きています*4。解説でも述べられていますが、⑤の「いつも恋愛をしていたい」が10.9%と他国より10~20ほど低いことも考えると、恋愛に対しては「受身」傾向にあるといえるかもしれません。

 

しかし、この話、男女差に注目をすると、おやおや、と思うところがあります。

国別のクロス集計を見てみましょう。

 

「国別クロス集計表 日本」

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s5_3.pdf

 

 

⑥積極的

⑦受身的

男性

26.80%

28.00%

女性

14.60%

40.40%

 

ご覧の通り、男性だけに限ってみれば、⑥も⑦もほぼ変わりがないんです。しかし、女性に関しては⑦を選ぶ人の割合がとてつもなく増えてしまっているんです。なので、全体の平均で見たときに、⑦の割合が大きく逆転をしているという結果を引き起こしている、と思われます。

 

これは調査結果の解説でも言及されていて、「注目されることに、日本女性は、「気になる相手には自分から積極的にアプローチをする」が 12.8%に対して、「相手からアプローチがあれば考える」は 45.0%に上っており、強い受け身の姿勢である」としています*5。なので、共同のような「日本の男女は」という書き方は、やや正確性に欠けるかなと思います。

 

この調査で言いたいことは「受身」ではない

そして、この調査はあくまで「少子化」に関するものであり、別に日本人の恋愛観を調べるものではありません。

 

もう前述した、中京大学の松田先生の調査結果の解説を読んでいただくのが手っ取り早いのですが、この「交際・結婚」の項で言えることは次の通り。

 

①日本のカップル形成は結婚でされており、同棲は非常に少なく、結婚意向が突出している。

②欧州3カ国が同棲の割合が増えるのは、同棲への法的な保護や結婚への規範意識の違いがあげられる。また、3カ国内でも違いがある。

③日本女性は強い受身の姿勢が見られ、出会いを積極的に求めず、そのため結婚にいたっていない。

④出会いの機会は友人の紹介がどの国も一番多い。「結婚支援サービス」を望む未婚の人も多い。これは行政が支援に関わることができる。

⑤日本の交際や結婚生活の不安は、他国に比べて経済面での割合が高い。

⑥以上により、日本の若い世代が希望すれば結婚することができるようにするためには、出会いの場づくりに対する支援と経済的問題へ対処することが求められているといえる。

 

特にこの松田先生は、少子化問題については家庭への福祉的支援だけでなく、企業や雇用に対する経済面からの言及も多く*6、⑥の主張が一番述べたかったことでしょう。

 

 

今日のまとめ

①今回の報道は、内閣府の「平成27年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」の調査結果によるものである。

②共同通信の配信及びそれを元にした記事は、その一部分の「交際・結婚」に関しての結果のみに触れている。

③過去2回行われた調査ではあるが、「交際」の質問項目に関しては今回が初めてであり、その結果はニュース性のあるものだったといえる。

④「受身的」な恋愛観は、特に女性の側に見られ、全体の平均を大きく底上げしており、「男女」どちらも「受身的」とは、この結果のみでは言い難い。

⑤結果の分析としては、行政のマッチングへの支援や経済的支援が求められるという結論であり、「受身的」に関してはその傍証の一つにすぎない。

 

「ここテストに出るぞー」と言って赤線を引く教師の如く、今回の報道は結果の一部分だけを強調したものです。短く制約のある中で記事を仕上げるのは大変ではありますが、少なくとも「少子化」に関する調査なのだから、そこにつながるような形の設問を取り上げてほしかったなと思います。たとえば、出産・育児の項目は、そりゃ少子化になるよというような回答が目立ちます*7

 

それにしても男性諸君。女性は君たちのことを待っているようだぞ。ぜひ当たって砕ける人が増えるとよいですね。砕けちゃダメか。

 

 

*1:たとえば

東京新聞:日本の男女は恋愛に受け身 内閣府の国際意識調査:話題のニュース(TOKYO Web)

日本の男女は恋愛に受け身 内閣府の国際意識調査:話題のニュース:中日新聞(CHUNICHI Web)

*2:もちろん変化が全くないわけではありません。たとえば、出産に関しては、今回の調査において「希望子供数」は一番低い数字になっています

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s3_2.pdf P88-89

*3:第5部集計結果表など

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s5_1.pdf

より一部改変して引用。設問の番号は記事内での引用のために便宜的に引用者がつけた

*4:

ちなみに、英語の設問は

⑥I actively approach someone that I am interested in

⑦I think about having a relationship with someone if asked by him or her

としているのですが、この訳文と日本語の「アプローチ」が同義的に捉えられたかが少し疑問です。でもその違いをはっきり言えるほど私の英語力は高くないので、これ以上は黙ります

*5:第3部調査結果の解説 第1章交際・結婚 P84

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s5_3.pdf

解説の松田先生は、初めは「日本は恋愛に対して受身的な姿勢が見られる」としていますが、まとめの項で、「日本女性は」という書き方で「強い受身の姿勢」という表現を使っています。なお、割合の数字が違うのは、きっと統計上の処理の違いによるものと思われます

*6:

少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか

少子化論―なぜまだ結婚、出産しやすい国にならないのか

 

総花的に、少子化について書かれています。若年層の雇用劣化と未婚との関係が家族形成の困難を引き起こしていることや、企業の両立支援のあり方、大都市中心の少子化対策などについて論じられています

*7:Ⅲ出産についての問8の「子育てにお金がかかりすぎる」が他国に比べてすんごく高くなっていたり、Ⅳ育児についての問14の子供に対する夫と妻との役割が、未だに女性中心であったりとか、いろいろなアプローチの仕方があるのではないかと思います。

http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/research/h27/zentai-pdf/pdf/s5_1.pdf

まあ、単純に記事として平凡すぎるといったところなんでしょうか。