ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

ジョージ・ルーカスは「俺の宇宙では出るんだよ」と言ったのか、科学的な非科学の世界

スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (字幕版)

先日、ようやくスターウォーズのエピソード7を見たのですが、ジョージ・ルーカスがこんな名言を言ったというツイートが話題です。

 確かに、空気のない宇宙空間であんなに爆発音が出たりするのは変ですよね。でも、ルーカスは、「俺の宇宙では出るんだよ」と反論し、「かっこよすぎる」とみなさん反応しています。

 

しかしながら、この「名言」というやつは一番改変され、捏造されやすいものでもあります。果たして本当にルーカスが言ったのか、調べてみました。

 

 

***

 

 「俺の宇宙では出るんだよ」のパターン

 

まずは日本語で検索してみますが、この名言にはいくつかのパターンがあります。

 

「僕の宇宙では物が燃えるし、音も出るんだ」*1

 

「私の宇宙では音がするんだよ」*2

 

「現実の宇宙じゃ音なんて出ないだろうね。でも、僕の中の宇宙では音が出るんだよ! その方が楽しいじゃない!」*3

 

「僕の中の宇宙では音が出るんだよ。その方が楽しいでしょ。」*4

 

この中で一番古いのは「私の宇宙では音がするんだよ」の2010年7月22日。あまり派生的に名言が生まれる時はアヤシイんですが、今回はどうでしょうか。

 

「名言」のインタビューは存在する

というわけで、いよいよ英語で調べてみると、結構簡単に見つかりました。

 

billmoyers.com

 

1999年のインタビューですので、「ファントム・メナス」の公開にあわせたものでしょう。「The Mythology of STAR WARS」で検索すると動画も出てくるので、何かのテレビ番組のようです。ビル・モイヤーという有名なジャーナリスト*5がルーカスにインタビューしています。

 

さて、どういう文脈での発言かというと、ビルの、「そういうアイデアってどっから出てくるの?」という質問に対して、ルーカスは、「特別で洗練されたものをつくりたいから」と答えます。そして、「ファントム・メナス」のナブーの水中都市を例に出し、「静水バルブはどうやって存在しているのか」「エネルギー源は何か」などといった、映画本編には出てこない事象も、しっかり考えなければウソくさくなってしまうと語り、そうやって全くの空想の世界に洗練されたリアリズムを作り出すわけだ、と答えます。ルーカスは、それを自分が作り出した「科学」だと呼びます*6

 

けれども、一度そういう「ルール」を作り出したならば、そのルールとともに生きるべきだと続けます。ビルがその「ルール」について訊ねると、ルーカスはこう答えます。

 

 one of the rules is that there’s sound in space.

そのルールの一つは、音のある宇宙だ。

 

おお、出てきましたね。ルーカスはこう続けます。

 

So there’s sound in space. I can’t suddenly have spaceships flying around without any sound anymore because I’ve already done it. I’ve established that as one of the rules of the — of the — of my galaxy and I have to live with that.

音のある宇宙が存在するんだ。僕が何にも音を立てずに急に飛び立つ宇宙船を作らないのは、そういう宇宙を作ったからだ。僕はそんな僕自身の宇宙のルールを構築し、そしてそのルールとともに生きているんだ。

 

確かにルーカスは、「音のある宇宙」というものを意識して作ったということがここから読みとれます。

 

「科学的な非科学」の世界

恐らくですが、ルーカスの「sound in space」の話は、きっとこのインタビューが初出ではないでしょう。スターウォーズの音響を担当したベン・バートという人が『Sound-on-film: Interviews with Creators of Film Sound』という本でインタビューに答えています。

彼は、スターウォーズのような革新的な効果音をどうやって創り出したのか、という質問にこう答えています。

 

"If this sound-producing object really exsited, what would it sound like?" So I start out with a scientific view.

「もしこいつの音が実際に存在したとするなら、どんな音だろう?」そうやって、僕は科学的な見方で(製作を)始めたんだ*7

 

「科学的」というところがポイントですね。そしてこう続けます。

 

Of course we had sound in sapce, so that violated all the laws of physics right off the bat.

あったりまえなんだけど、僕らはたちどころに物理法則を破壊するような「音の出る宇宙」を作ったというわけだ*8

 

結局、これらが「科学的」ではないことを、製作陣は百も承知なわけです。そして、彼らが意識していたのは、スターウォーズと対極にある『2001年宇宙の旅』です。

 

2001年宇宙の旅 (字幕版)

ご覧になった人はわかると思いますが、『2001』には音がほとんどありません。この映画は非常に「科学的」に作られているわけです。『2001』は公開が1968年。一方のスターウォーズは1977年。ルーカス自身も製作陣もかなり意識しているわけです。

ベンも、ルーカスに「『2001』みたいにしなくていいのか」みたいなことを聞いているのですが*9、ルーカスは、「オーケストラがどこから演奏してるか正当化すべきでなくとも、僕らが望む音楽を作ることはできるよ」と答えています*10

 

だからといって、彼らは「しょせんSFだものね(Oh yes, that's science fiction)」という音(たとえばシンセイサイザーやテルミンのような今までの宇宙映画の効果音)を望んでいるわけではありません。あくまで「現実的」な、力強く身近にあるような、そして今までの常識を覆すような、そんな革新的な音を作りたいと、彼らは述べているわけです*11。そのためには、実際にその宇宙船が存在するとして、いったいどういう作りで飛ぶのか、エンジンは何かといった、「科学的な見方」が必要なわけです。

 

「音の出る宇宙」は決して逃げの姿勢ではありません。ルーカス自身も言ったようにこれは「ルール」です。その「ルール」の世界で、合理的な世界を創り上げなければならないのです。これは非常にクリエイティブでそして困難です。非科学的な世界に「科学的」なルールを創りだしたということが、ルーカスという人間の本当にすごいところなんでしょう。

 

今日のまとめ

①「俺の宇宙では出るんだよ」と似た発言は、1999年のインタビューで確認できる。ただ、これが初出ではない可能性も大きい。

②製作当初から『2001』との対比として、「音の出る宇宙」について意識的だったことは製作陣の話からも推察できる。その中でルーカスは「科学的」に現実に近いものを創り上げようとしていた。

 

というわけで、今回は珍しく、「名言はありまーす」という回でした。しかも、より「ルーカスってかっけえな」と思えるような発言でした。これをリツイートして共感している人は、創作関係の人も多いようですが、ぜひルーカス並の「宇宙」を構築して欲しいですね。

*1:よくガンダムとか宇宙で戦って爆発とかしてるけど

*2:スターウォーズ 宇宙空間での戦闘について 「音」はどうなんでしょ? ... - Yahoo!知恵袋

*3:https://twitter.com/mudaizumi/status/646041992154124288

*4:音の実験小ネタ集① : 中学校理科教師ふたばのブログ

*5:Bill Moyers - Wikipedia, the free encyclopedia ホワイトハウスの報道官を歴任したこともあるんだとか。

*6:以下の発言から要約。

 We were using a kind of technology which had to be completely worked out. How do these bubbles exist under there? Where do they come from? What do they use for energy? The whole culture has to be designed. What do they believe in? How do they operate? What are the economics of the culture. Most of it doesn’t appear in the movie, but you have to have thought it through, otherwise there’s — something always rings very untrue or phony about what it is that’s going on. And one of the things I struggle for is to create a kind of immaculate realism in a totally unreal and fantasy world. It’s a science that I can make up. But once I make up a rule, then I have to live with it.

*7:Sound-on-film: Interviews with Creators of Film Sound - Vincent LoBrutto - Google ブックス P142

*8:前掲P142

*9:"Are we going to do a movie which is that 2001 style"

前掲P142

*10:"we're going to have music, and if you don't have to justify where the orchestra comes from, I guess we can have any kind of sound we want."

前掲P142

*11:前掲P143を抜粋要約。興味のある方は読んでみてください