ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

プーチンは死亡していたりISを殲滅したりしているのか、スレタイ詐欺にご用心

以前、江川さんだったか、日本人ほどロシア文学を読み込んでいる他国の人間はいないのではないか、と書いていたのを目にしましたが、どうもみなさんロシア関係の話題はお好きなようで、こんな記事がありました。

 

blog.livedoor.jp

 

ロシアが「Admiral Kuznetsov」という空母をシリアに派遣するというニュースなのですが、ソースのParsTodayを読む限り、どこにも「バングラデシュのテロをうけて」とは書かれてないですし、「追悼」云々の文字も見えません。

 

parstoday.com

 

2ちゃんの元スレッドでは、「プーチンさん、バングラデシュで殺害された20人の追悼のために20万人を虐殺すると宣言」と、ずいぶんあることないこと書かれています*1

 

続けて、「プーチンがいなくなった」というニュースも話題になっています。

news.infoseek.co.jp

 

7月1日を最後に、プーチンが姿を見せず、出張の予定もキャンセルされたので、健康不安説も出ているということです。巷では「プーチン死亡」みたいなスレタイも目立ちます*2

 

いわゆる「スレタイ詐欺」というやつなんですが、今日は簡単に元記事含めて検証してみようかと思います。

  

***

 

シリアへの空母派遣は非公式の情報

 

さて、シリアへの空母派遣について、ParsTodayがソースに挙げているのが「The Sun」。

www.thesun.co.uk

 

なるほど、The Sunでは、

The Kremlin strongman’s decision came in the wake of ISIS atrocities in Bangladesh – where it murdered 20 hostages in a restaurant in the capital Dhaka – and Baghdad, Iraq, where a car bomb killed 125 shoppers.

とあるので、これを読むと、「ISISのバングラディッシュやバグダッドでの残虐な行為から決定した」という風になりますね。ParsTodayの書き方とはちょっと違います。

 

The Sunは、ロシアメディアの「TASS」をソースにしているのですが、こんな感じです。

tass.ru

 

「軍の関係筋が言うには」、空母の「Admiral Kuznetsov」をシリア沿岸の地中海に「2016年10月~2017年1月」までISの攻撃のために派遣する旨が書いてあります。しかし、バングラデシュや追悼云々の文言は見えません。

 

また、記事では「TASS does not have official confirmation of this information.」つまり、「公式的な情報ではない」と注釈を加えています。

 

Admiral Kuznetsovはもともと地中海に派遣される予定

さて、今回派遣されるとされている空母は1985年が初進水の、ソ連時代の古いものなんですね。

しかしながら、どうやら一度も実戦経験はなく、演習などでたびたび地中海を航行しています。

rybachii.blog84.fc2.com

実は、去年の10月に改修がひとつ終わり、今年の3月ごろの記事では、同じように地中海に派遣される予定だったという話が出ていました。

izvestia.ru

www.vesti.ru

Google翻訳に頼りますが、「Российский тяжелый авианесущий крейсер «Адмирал Кузнецов» осенью будет переброшен в Средиземное море, к берегам Сирии.」は、地中海航行に投入される、みたいなことが書いてあります*3

riafan.ru

上記記事によれば、「2013年から地中海に永続的に展開」とあるので、地中海におけるロシアの艦隊の展開は、前々からのロシアの軍事的計画のひとつであるということです。これはもちろん、シリア情勢を見据えてのことでしょう。

ria.ru

RIA通信によれば、この空母が2016年秋に地中海へ展開されることが語られています。これは7月2日の記事で、TASSのシリアへの展開の記事と同日です。RIA通信ではISのことには触れられず、差異があります。「Адмирал Кузнецов」が地中海に派遣されるのは確かなようですが、どこまでシリア情勢に介入する予定なのかはまだ不確実なところが多いようです。

 

プーチンはよく死んでいる

さて、一方のプーチン死亡説ですが、時事通信が参考にしたというベトモスチ紙のソースを探します。

www.vedomosti.ru

Google翻訳した限り、時事通信と同じことが書かれています。予定がキャンセルされ、会議がおじゃんになったことや、一応延期の予定もあるというような旨です。

 

independentは、Gazeta.ruというロシアの独立紙をソースに挙げ、「トルコや係争中のジョージアのアブハジアとの関係に集中したく」「他の地域の訪問は8月か9月の選挙に近い日に延ばした」のではないかと「クレムリン筋」が伝えたと述べています。

www.independent.co.uk

 

実はこういった話は初めてではなく、2015年春にも、色々な予定がキャンセルされ、雲隠れしていた時期があります。

 

色々な説が流れていて、例えば病気のためにモスクワに帰った説、

www.businessinsider.com

インフルエンザにかかった説、などがあります。

it.euronews.com


様々な話がありますが、まあ、死んでることはないんじゃないかなあと思いました。

 

今日のまとめ

①空母の地中海のIS攻撃のための派遣は、「公式発表」ではない。

②元々、空母を派遣する予定ではあったが、情報はシリアを直接攻撃するためというものと、通常の地中海航行という2つが存在する。

③プーチンの雲隠れは、トルコやジョージアとの問題に集中したいものではないか、という話もあり、また2015年にも同じように姿を見せない時期があった。

 

 

ちょっと前に、「記事の内容を読まずにタイトルという情報を共有することに喜びを感じる」みたいな調査が話題になりました。

www.j-cast.com

たとえば、最初の「プーチンさん、バングラデシュで殺害された20人の追悼のために20万人を虐殺すると宣言」という2ちゃんのスレタイの「20万人」のソースがどこにも書かれていないことに反応している人は、1000件中たったの3人でした*4。ISの戦闘員という数だとしても、確かに20万人とするメディアもありますが、情報によって「9000~18000」「20000~35000」など、だいぶ数に開きがあるので*5、まずはこういう数字に疑問を持つべきだと思うのですが、なかなかそうではないんですね。

 

私のブログの記事のタイトルは、「○○か、今日の格言」みたいな構成に今は落ち着いていますが、「【悲報】プーチン死亡」みたいなタイトルにすれば、もっとアクセスが稼げるんでしょうかね。うーん、する気もないですが、みなさん、せっかく書かれた記事は最後まで読みましょう。