ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

タンポポは薄毛に効果があるのか、黙示録的な最後の課題

 

「ダイエット」と「髪の毛」に関する話題は、常にアクセス上位の話題だといいますが、こんな話が。

jin115.com

バスクリン社」が「タンポポの根」に「高い育毛・発毛作用がある」という発見をしたという記事。バスクリン社からその成分が入った製品も出ているそうなのですが、管理薬剤師の方によれば、「タンポポコーヒー」を手軽に作ることが出来るよ、という話で記事は結ばれています。

 

うーん、そんなうまい話があるのかな、ソースもアサ芸だし…という感じで調べてみました。

 

***

 

この話題は8年前の話

 

 一応、ソースのアサ芸をはっておきます。

www.asagei.com

記事は2016年6月4日のもの。「さらに遺伝子レベルの研究を重ねた結果、ホコウエイ根エキスには、髪のケラチンを束ねたり、毛包を構造的に強くする3つのタンパク質(レペチン、トリコヒアリン、インボルクリン)の産生を同時に促進する効果があることがわかった」というようなことが、タンポポの根のエキスにはあるんだそうです。

 

というわけで、バスクリン社のソースを探してみますと、あっさり見つかります。

www.bathclin.co.jp

「日本生薬学会」で発表された研究結果のようで、2008年9月26日と記事掲載日はなっています…2008年? アサ芸はさも最近の発見のような書きぶりをしていますが、もう8年も前の話ですね。

 

社名もまだ「ツムラライフサイエンス株式会社」の頃のもので、タンポポの根のエキスに「「HGF(肝細胞増殖因子)産生促進作用」と「毛包・毛髪強化因子の発現促進作用」を新たに発見した」というのが正確なところです。背景には「女性用育毛市場は拡大しつつあります」とあるので、当初は女性用の育毛剤開発の狙いがあったことがうかがえます。

 

実際は、見た目的には男性用ですね(女性用もあるようですが)。

 

モウガ 漲 120mL 育毛剤 (医薬部外品)

モウガ 漲 120mL 育毛剤 (医薬部外品)

 

 amazonは発売日が「2011年」と出ていますが、楽天なんかを見ると「2009年」とあるので*1、この研究結果から1年後には発売されたのでしょう。

 

外用薬としての作用のみ

研究としてはマウスによる塗布実験を行っています。毛再生率はコントロール群の14%に比べて36%と有意に高い値を示したそうです。正常ヒト皮膚繊維芽細胞においても、添加することでHGFの産生促進作用が認められたんだとか。

 

ということは、要するに外用薬としての作用がタンポポの根のホコウエイ根の成分にはあるらしいということです。それを経口摂取してどのような効果が現れるかは、研究内容には入っていないことになります。

 

なので、記事中にある「タンポポコーヒー」で「手軽に同様の効果を得る」のは無理があります。それを頭にふりかけるなら話は別かもしれませんが。だいたい、なぜ「管理薬剤師」に話を聞くのか疑問です。

 

ホコウエイ根の育毛界での存在感

特許の出願なんかを見ると、育毛剤の成分のかけあわせとして、「ホコウエイ」はよく名前が出てきます。

 

■育毛剤組成物及び痒み抑制剤(株式会社ツムラ)2005年6月9日

https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM407_ToItem.action

■育毛用の皮膚外用剤(ポーラ化成工業株式会社)2003年8月5日

https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM407_ToItem.action

■白髪防止用外用剤(三省製薬株式会社)2013年8月19日

https://www7.j-platpat.inpit.go.jp/tkk/tokujitsu/tkkt/TKKT_GM301_Detailed.action

 

保湿成分的な感じなんでしょうか、研究過程として使われていた補助的な生薬が、いつのまにかメインで張れる感じになったということでしょうか。

 

しかし、だったらなぜホコウエイ根を色々な商品に組み込まないのでしょうか。バスクリン社の新しい商品である「髪殿」には、「桑根皮エキス」が推されていて、残念ながらホコウエイ根は含まれていません*2。効果があるなら入れちゃえばいいのに、と思うのは素人考えでしょうか。

 

バスクリン社が一貫して変わらないのは、「ショウキョウ・ニンジン・センブリ」の組み合わせで、これはほとんどの育毛商品に含まれています。これに関しては研究結果が出ていて*3、先ほどもリンクに挙げましたが、特許も取得しているようです。ホコウエイ根に関しては調べた限りでは出願しておらず、うーん、何故なんでしょう。一応育毛剤のトップには「モウガ」シリーズがあるので*4、主力看板ではあるとは思うんですが、この先どうするんでしょうかね。

 

今日のまとめ

①タンポポの根と薄毛の話題は、2008年の話である。

②研究は塗布して行われたものであり、タンポポコーヒーなどの経口摂取での効果は確認されていない。

③ホコウエイ根について、これからバスクリン社がどの程度プッシュしていくのかは不明である。

 

薄毛に対する人類の取り組みは古く、古代エジプトの頃から治療法が記されていたんだとか*5

日本でも昔から対策が色々と語られていて、明治42年に出版された『美容術』という本の中には、「著者が泰西の諸書に散見せる生毛剤」として「善良なりと認めたる」ものとして、

 

(一)ラム酒(一七オンス半)幾那丁幾(四六四グレーン)蓖麻子油(四六四グレーン)を練り合せたるもの。

(二)酒精(一ビント一五オンス)食塩(四六四グレーン)幾那因(七七グレーン)の混合剤(以下略)*6

 

などといったものが挙げられています。うーん、頭がベトベトになりそうです。

 

こんなに昔からある「症状」で、ここまで解決方法が出てこないものっていうのも、相当めずらしいんじゃないでしょうか。薄毛は、人類に残された黙示録的な最後の課題なのかもしれません(適当)。

 

それにしても、この記事を書くために色々調べていたら、広告がアデランスやらなんやらばかりになってしまいました。Googleおそるべし。