ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

イジメ対策マンガを文科省は作ってはいない、スクエニ効果みたび

今日は短い検証記事。

 

ここ数日で、ある「イジメ対策マンガ」が流行っています。

burusoku-vip.com

文科省が作ったとされるもので、ジャイアン似の子どもが「オレのいうことがきけないっていうのか」と、のび太似の少年にすごんでいますが、「みんな人権があるんだから、むりやりカバン持ちやおつかいをさせちゃいけない!」と言う権人くんの言葉に、クラスからの同調圧力もあり、ジャイアン似の少年が反省する、という、すこぶるお役所らしい内容です。絵柄の昭和的センスもあいまって、なかなか時代錯誤の様相をかもし出しています。

 

というわけで、このマンガの意図するところについて正確に調べてみたいと思います。

 

 

***

 

さて、このマンガ、どこかで見たことあるなあと調べたら、2010年にも話題になっていたものでした。

 

法務省が提案する「いじめの止め方」のマンガがひどいと話題に | ニュース2ちゃんねる

 

タイトルからもわかるとおり、このときは「法務省」が提案するという形になっています。どちらが正しいんでしょう。

 

ということで調べると、法務省が正しいことがわかります。

 

www.moj.go.jp

 

タイトルは『みんなともだち マンガで考える「人権」』ということで、「イジメ対策」ではなく、「人権啓発」のための冊子のようです。ページを進めていくとわかりますが、「男女平等」「同和問題」なども取り上げています。しかしまあ、どれもなんというか、お役所的というか・・・

 

作画を担当している「よこたとくお」さんは、どっかで見たことがあると思ったら、学研のひみつシリーズの人ですね。

記号・単位のひみつ (学研まんが ひみつシリーズ)

 

さて、この人権マンガがいつごろ書かれたものか知りたいところです。

 

こんなときに便利なのが国会図書館の検索です。国会図書館サーチは全国の公共図書館も網羅するので、こういうものもきっと検索にひっかかるでしょう。

 

検索すると、いくつか出てきますが、近いのは2つ。

みんなともだち : マンガで考える「人権」 (法務省): 1992|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

みんなともだち : マンガで考える「人権」 : Human rights (法務省): 1997|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

どちらも「よこたとくお」が絵を担当していて、タイトルもほぼ一緒です。上記は滋賀県、下記は大阪府の中央図書館にあるそうなので、お近くで元気のある方は調べに行かれるとよいかと思いますが、ここでは、ソース元の画像のタイトルにある「Human rights」の文字が入っている1997年版の方だと仮定しましょう*1

 

つまり、このマンガは今から20年ほど前に作られたものということになります。個人的には1990年代はそんなに昔な感じはしないのですが、まあ確かにちょっと古臭くなるもの仕方がないかなという感じはします。

 

この「みんなともだち」は現在も刊行されていて、絵柄も今風になっています。

 

「みんなともだち」姫野よしかず絵

http://www.moj.go.jp/content/001154459.pdf(リンク先PDFかつ30MBぐらいあります)

 

内容も、最初のやつよりは、現代風にアレンジされていて、そこまで無理やり感はないです。ちょっと垢抜けた感じですね。

 

この現代版がいつから刊行されているか、正確なところはわかりませんが、国会図書館でサーチする限りでは2013年*2。入札の落札者を確認すると、「冊子「みんなともだち マンガで考える「人権」」製作請負業務」の名目で、平成25年4月19日に図書印刷株式会社が契約しているので、この現代版は2013年からのものと考えていいでしょう*3

 

要するに、法務省人権擁護局は、20年近く続いていた「みんなともだち」の内容を、つい最近刷新したわけです*4。さすがに腰が重いというか、なんというか。

 

しかし疑問なのが、なぜ、刷新前の「みんなともだち」のページを残しているかです。アーカイブで拾ってみると、件のページ、なんと2001年から存在しています。

 

みんなともだち〜マンガで考える「人権」〜

 

比較してみるとわかりますが、内容は全く変わっていません。つまり、少なくとも15年近く、このページは法務省のサーバーの中でほっぽかれていることになります。もう推察するしかありませんが、特に意味はなく、ただ消し忘れているだけなような気もします。

 

 

・今日のまとめ

○最近のネットで広まる「イジメ対策マンガ」の製作元は、文科省ではなく法務省である。

○少なくとも1997年ごろからこのマンガは存在している。

○この「みんなともだち」は、2013年から内容を刷新している。

○(推測)にもかかわらず過去の「みんなともだち」のページが残っているのは、担当が消し忘れているだけのような気がする。

 

さて、今回私が注目したいのは、ネットのスクエニ効果(=同じネタをまた繰り返すこと。スクエニのリメイク癖よりあやかる)です。ファッションが一巡してまたリバイバルブームになるように、ネットの情報はそれよりも短期間で同じネタが繰り返される傾向にあると思います。

 

冒頭で書いたように、この話題は2010年が初出ではありますが、実はその後もたびたび話題に上がっていて、

・2012年

法務省の「いじめ防止漫画」が酷いとネットで話題!-どっかの猫型ロボットは出てこないのか? ヲタにゅぅ

・2015年

いじめ解決に同調圧力?法務省が制作したマンガをきっかけにネットで様々な意見が|GAMY(ゲーミー)

と、2~3年おきに話題に上っています。というか、前回話題にのぼったときから1年足らずしか経っていないのに、また「新しい情報」のような顔をしてネットを徘徊しているわけです。以下に我々は「情報」を素通りして見ていることか。

 

こういうのを見るにつけ、実はネットの情報って、結局は使い回しが多くを占めているんではないのかな、という気がしてきます。「ネットは広大だわ」と少佐は言いますが、結局その情報を操る我々は、尾っぽを追いかける犬よろしく、同じところをぐるぐる廻っているだけなのかもしれません。

 

*1:ちなみに「1900年」というものもありますが、もちろんそれは除外しました。恐らく端数の年号がわからなかったので、そのような表記になっているのでしょう

みんなともだち : マンガで考える「人権」 : Human rights (法務省): 1900|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

個人的には、この3つは全て内容は同じものではないのかな、という気もします。ただ、入札した際の印刷会社が変わった関係で出版年の違いがあるか、あるいはただの年号の間違いか、といったところではないでしょうか

*2:みんなともだち : マンガで考える「人権」 (法務省人権擁護局): 2013|書誌詳細|国立国会図書館サーチ

*3:競争入札に係る情報の公表

http://www.moj.go.jp/content/000115962.xls(エクセルファイル)

ちなみに契約金額は約251万円。うーん、これを無駄遣いとみるかどうか

*4:その間に内容を変えて配布していた可能性もありますが、過去の入札告示などに引っかからなかったので、恐らく同じものを使いまわしたのではないでしょうか。ただ、刷り増しを入札告示にかけていないということは、同時に配布も積極的にはしていなかったのかもしれません。