ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

台湾の地震で韓国の救援隊がスマホをいじってヒマしてたのは本当か、デカルトになりなさい

台湾の地震はまだまだ被害の全容が見えない部分もありますが、こんな記事がありました。

blog.livedoor.jp

たった3人で台湾地震救助活動に韓国の人が向かい、だけど言葉が通じず特にすることがなくてスマホをいじってた、という内容です。記事には確かに3人の男性が座ってスマホをいじっている写真がのっています。

韓国の話というのは、失敗すると左からも右からも全包囲攻撃が来るので、極力扱いたくないのですが、どうも「この話はデマではないか」という話があるようなので、おっかなびっくり検証してみたいと思います*1

 

***

 

 

さて、この話の元記事はこちらになります。

www.chinatimes.com

2月10日20:03の記事で、中時電子報=中国時報が伝えています。中国時報は台湾を代表する大手メディアですね。

中国語は苦手なのですが、タイトルは「しゃーない!韓国の3人の救援隊が言葉が通じず、ただスマホをいじるばかり」です。まあ、日本のと同じ内容そうですね。

書き下しながら読んだ感じ、痛いニュースさんがソースにしてるレコードチャイナと、大して記事内容に差はありません。せいぜい、3人の救援隊の名前が載っていることと、日本の救援隊*2が来てすぐに帰ったみたいなことが書いてあります。これも皮肉っぽい書き方ですね。

 

なので、どう好意的に解釈しても、少々皮肉めいた書きぶりの記事となっています。おかげでたいそう炎上したのか、翌日2月11日には同じ写真を使って、ちょっと好意的に続報を書いています。

www.chinatimes.com

なかなか面白いことに、写真のキャプションが変わっていて「自費で台湾の救助活動に来た3人は無力さに後悔をしている*3」みたいな感じになっています。前の記事の「韓国の救援隊は現場に入ることができず、無気力にただスマホをいじっている*4」に比べると、アツカイに差が出てきましたね。よっぽど怒られたんでしょうか。

 

記事の内容としては、あんまり役に立てないので、予定を早めて帰る、みたいなことが書いてあります。あら、帰っちゃうんですね。台南市の副市長があいさつにきて謝辞を伝えるとともに、救助活動の人数が十分に足りていることを伝え、3人は予定を変更することを決めたようです。中国時報は「(支援を申し出るという)精神は尊敬に値する」みたいな文*5で締めています。ちょっとほめ殺しな感じもする記事です。

 

中国時報は全体的にこの韓国の3人の救援隊に否定的な書きぶりですが、はじめから台湾メディアが全てそうなわけではありません。

 

 

news.tvbs.com.tw

 

こちらは2月10日17;51の記事で、「経験豊富な韓国人3人が、自費で救助活動に来た」というようなことがかかれてあります。これは好意的ですね。

動画もついていて、3人のおじさんたちが、建物から救出することの困難さを語っています。注目して欲しいのは、27秒ごろの場面で、どうです?後ろの建物が、あのスマホをいじっている写真と一致しますよね?この救助隊は地震の4日後に来たとあるので、2月10日、その日の映像ということになります。

 

で、中国時報には「しょぼい」とされた機材も、東森新聞などでは、期待をもって報道されています。

www.youtube.com

がれきを切る電動のこぎりや、狭いところにも通るカメラ、集音装置みたいなものが紹介されています。ここまでがやってきた2月10日の話。

 

つまり、この韓国の救援隊が到着した2月10日は、こぞって台湾のメディアが彼らを取材した日でもあります。海外からの救助隊は(恐らく)初めてだったということで、台湾メディアの報道は多少過熱気味になったんでしょう。

 

ここからは推測になりますが、はじめは好意的に見ていたメディアも、言葉も通じず(動画で時々出てくるお姉さんが通訳か?)、現場にも入れず、ただ最新鋭の機械を持って待ちぼうけをくらっている彼らを見て、徐々に疑問を覚えてくるわけです。「彼らは本当に救助に来たのか?」と。

 

そうして、10日の20時という、彼らのデビューの日の最後のほうに、中国時報があのスマホの写真つきの記事を出したわけです。ある意味では、多くの報道陣が疑問に思っていたことを、中国時報は記事にしたわけです。

 

 

この韓国救援隊は、台湾の「八八水害」という2009年の台風被害のときにも活躍をしています。

www.youtube.com

おお、ここに出てくるおじさんは、今回の地震のときといっしょじゃありませんか?実はこの水害のときも3人で活動しています(人は全く同じではないかもしれないですけれど)。

 

今回、「国際救助隊」という形で各種メディアには出ていますが、正確には「1365中央救助隊的安管委員」「韓國國際救助隊中央救助教練」「韓國災害急救單位理事長」という肩書きの3人であり*6、組織だってきているわけではありません。恐らく水害のときもそうだったのでしょう。

 

「初の海外からの救助隊が来た!」という期待が、実際は個人的なボランティアという立場で来た「それぞれの組織の隊長格」の3人だったのですから、台湾メディアとしては裏切られたような思いもあったのでしょう。いくら経験があったところで、ビル倒壊のような大規模救助の場合には、この人数で手助けできることはありません。よくいえば「ボランティア精神で来た」ということになるのでしょうが、厳しく言えば「情報不足のままやってきた」感はぬぐえません。

 

しかし、「何もしないでスマホをただいじっていた」という情報だけを作為的に取り出した報道は、さすがにちょっと不公平かな、とも思います。機材を準備したり自費できたり、自分たちでできることはしようとして来ているのですから。まあ、ちゃんと連絡はとれよとは思いますが。

 

何が言いたいのかというと、韓国に関する報道は、このようにどんな情報にも色眼鏡がかけられてしまうことが、他のニュースにはないややこしさを生んでいるんだと思います。おそらくこの時代、韓国に関する報道でフィルタをかけずに判断することは、もはや不可能だと思います。これはなかなか異常な事態です。

 

なので、デカルトのようにすべてを疑い、公平にいろいろな意見に疑問を呈していき、そんな自分すらも疑っていくという疑りぶかさが、このおかしな時代には必要なんじゃないだろうかと思うわけです。

*1:こんな荒れまくっているTogetterまとめがありました。

togetter.com

 

なかなかアレな感じで、「ソースがないからデマだ」という話のようなんですが、これから書くようにソースはあります。と、記事を書きかけていた2月13日の19時ぐらいまでは「デマ」カテゴリで書いてあったのですが、20時ぐらいには書き換えられてしまい、いつのまにかまとめのタイトルが変わっていました

Google検索には「デマ」のころのタイトルが残っています。

f:id:ibenzo:20160213220056p:plain

*2:これは救援隊ではなく、被災状況把握のための予備調査チームのことと思われます。

【台湾大地震】死者23人に 日本の調査チーム到着に「いいね!」6万超

*3:来自韩国民间的3人搜救小组自费来台救灾,不料却英雄无用武之地,抱憾提早离台

今回の中国語の翻訳はGoogleとWeblioと漢文の知識でがんばりました。いろいろ間違っていたらごめんなさい。

*4:韓國搜救隊在現場不得其門而入,英雄無用武之地,只能在一旁滑手機

*5:但这支搜救小组的精神确实令人钦佩

*6:維冠倒塌想幫忙!但是「這個國家」的搜救隊擁有豐富救援經驗,卻苦坐冷板凳只能在一旁待命....!