ネットロアをめぐる冒険

ネットにちらばる都市伝説=ネットロアを、できるかぎり解決していきます。

日本ユニセフ協会は無駄遣いをしているのか、正義と嫉妬の論理学

いまさらですが、ネット上では、「ユニセフ」に、ネガティブイメージがつき始めているようです。一方で、ユニセフ親善大使の黒柳徹子さんは、評価が上がっています。

totalmatomedia.blog.fc2.com

レスには「年間1ドル」とありますが、親善大使としての仕事は無報酬なので、「0ドル」が正解です*1。こういうところから既に、インターネットというのは信用ならないなあと思いますが、「ユニセフ」に関するネット上の情報は以下の通りです。*2

 

①日本ユニセフ協会はユニセフの名を騙った団体である。(その証拠にユニセフ本家の東京事務所がある)

②日本ユニセフ協会に募金すると、ピンハネされる。

③100%募金したければ、黒柳徹子さんが開設している個人口座に振り込めばよい。

 

あとは、国内の親善大使であるアグネスに関する豪邸話などがあるのですが、今回は割愛します。 

まあ、上記に関してはちょっと調べれば全部ウソだとわかるのですが、調べている方は他にもいらっしゃるので、リンクを載せて、そちらも割愛します。

 

anond.hatelabo.jp

どっちに寄付すべき?⇒黒柳徹子経由のユニセフ、アグネスの日本ユニセフ協会 | ゴールドプロ作家 松本肇 のブログ

 

①に関しては本家のUNICEFの各国のリンク先に「日本ユニセフ協会」のリンクが張られているので、そんなわけはないということがわかります。*3

③に関しても、前掲したゴールドプロ作家の方が書いておられるように、黒柳さんの口座は個人口座なので、所得税を考慮しなければなりません。なので、100%有効活用されるかもしれませんが、それは黒柳徹子という資産家の存在があってこそだということです。しかも100%寄付されているかも不明です。*4

 

で、今回は②の、「日本ユニセフ協会に募金すると、ピンハネされる」について、ほんとにピンハネしてんのかな、ということをちょっくら考えていきたいと思います。

よく対比される「ユニセフ東京事務所」とは、ニューヨークを「本部」とするならば、アジア圏の統括事務所のようなものだと思ってください。

www.unicef.org

一方で、批判されている「日本ユニセフ協会」は、ユニセフが定めた「国内委員会」のひとつで、同じような団体が世界36カ国に存在するということです。

UNICEF National Committees | Structure and contact information | UNICEF

なので、「事務所」と「国内委員会」が並存している国は他にもあり、全てではありませんが、親玉のアメリカ、それからフランスやベルギー、トルコなどが挙げられます。*5

「事務所」が存在しない国もあり(というかそちらのほうが多い)、そこでは、その国のユニセフに関する事業は「国内委員会」が統括して行っていることになるわけです。

 

ということは、「日本ユニセフ協会」の歳入出と、各国の国内委員会の歳入出を見て、歳入(募金額)とユニセフに渡している以外の額の割合を比較してみて、明らかに「日本ユニセフ協会」の方の歳出が大きければ、「こいつぁピンハネだな!」と結論付けられるわけです。

 

まずは「日本ユニセフ協会」から確認しましょう。

なかなか批判には苦労しているみたいで、「当協会に対するインターネット上の誹謗中傷的書き込み等について」と題して反論を行っております。

世界190の国と地域で活動するユニセフ・ファミリー

その中に、協会の支出内訳が掲載されています。画像は転載しませんが、2014年度はおよそ169億円の募金があり、うち約80%をユニセフ本部に拠出とあります。つまり、残り2割は「事業費」などに当てられるため、「なんだよ募金の2割をピンハネしてんじゃねえか」という批判につながっているわけです。

というわけで、この「2割」という数字が、多いのか少ないのかを、各国と比較してみればいいわけですね。

というわけで、早速調べた表が以下の通りです。「早速」なんて書きましたが、結構資料集めるのに苦労しました。*6

f:id:ibenzo:20151003003100p:plain

さて、親玉のアメリカはさすがという感じですが、いかがですか、他の国はなかなか8割に届いていないじゃありませんか。言ってしまえば「3割ピンハネしてる」状態です。おいおい、誰か英語かフランス語で指摘してなきゃいけないんじゃないんですか?

 

日本は拠出額も2014年度は第2位ということですし、なかなかどうして、健闘しているほうだと思います。あとは個人の趣味の問題ですが、別に日本ユニセフ協会に募金しても、税金の優遇もあるし、損はしないんじゃないかなあと思います。

 

「損はしない」というところが今回の話のミソで、ネット上で批判をしている人たちのうち、いったいどれだけの人が実際に募金をしたことがある人たちなんでしょう。確かに、実際に募金をした人たちが、自分の募金が全額ユニセフに拠出されているわけではないと知ってがっかりする気持ちはわかります。しかし、実際に募金もしたことない人達が「ピンハネだ!」と声を大にして叫ぶところ、私はそこには、正義の名を借りた嫉妬の感情があると考えます。

極論を言えば、日本ユニセフ協会が悪の団体で、募金を根こそぎ私的流用していたっていいんです。ユニセフが儲けたからと言って、あなたが損したわけじゃなし。「あいつばっかりずるい」という嫉妬の感情が、「正義」の衣をかぶってインターネットを席巻してるわけです。「正義」の味は甘美なものですので、ろくに情報も調べず、そのまま鵜呑みをした集団ができあがるという寸法です。

 

まあまあみなさん、心はホットに、でも頭はクールでいましょうよ、という呼びかけで、今回の記事は終わりにしたいと思います。

 

 

*1:ユニセフを応援する著名人の方々 | 日本ユニセフ協会

日本ユニセフ協会が信用できないという人は、本家のサイトをどうぞ。

Goodwill Ambassadors & Advocates | UNICEF People | UNICEF

*2:私はこの情報の発端は、黒柳徹子さんが「お願い」を載せている田川一郎のホームページの日記にあるのではないかと考えています。

日記風気まぐれエッセイの第143話に、日本ユニセフ協会に関する現在の批判と同じようなことが掲載されています。

*3:Contact us | At a glance: Japan | UNICEF

*4:黒柳さんのお願いのページを見た方はお分かりと思いますが、なかなか手作り感溢れるページです。

トットチャンネル/お願いチャンネル

個人的には、黒柳さん本人が書いているのかも不明で、しかも募金先が個人口座で、そしてそのお金が本当にUNICEFに寄付されているのか、公的な証明が全くないという状態のほうが、一般的にはアヤシイとなるんじゃないかと思うんですけどね。「お礼状を送らないのは80円の切手代が無駄になるから」と言っているのですが、PDFにして某かの証明書は出せないもんなんでしょうかね。それに、縁起でもない話ですが、たとえば黒柳さんが亡くなり、まだ口座にお金が残っていたとしたら、それは誰が処理をするのか。相続税はどうなるのか。肩代わりしていた税金分は誰が処理するのか、など、なかなか問題は山積するかと思います。

ちなみに、UNICEF本家のページにも黒柳さんは紹介されていて、そこには「(she) makes direct fund-raising appeals, raising over US$45 million for UNICEF programmes.」とあるので、本家も認知していることがわかるので、黒柳さんの口座はホンモノのようですよ。

*5:Contact us | At a glance: United States of America | UNICEF

Contact us | At a glance: Belgium | UNICEF

Contact us | Turkey | UNICEF

Contact us | At a glance: France | UNICEF

「National Committee」と「Headquarters」が併記されているのがわかります。

*6:参考にしたのは以下の通り。PDFばかりなので注意。基本的に「total」の「income」と「costs」から単純に計算しました。なので、「income」は純粋な募金のみではありません。数字が間違ってたら誰か訂正してください。

オーストラリア:http://www.unicef.org.au/Upload/UNICEF/Media/AboutUs/Publications/UA-Financial-Statements-2014.pdf

フランス:https://www.unicef.fr/sites/default/files/userfiles/UNICEF_RA2014_MEL.pdf

イギリス:https://www.unicef.fr/sites/default/files/userfiles/UNICEF_RA2014_MEL.pdf

アメリカ:Charity Navigator Rating - United States Fund for UNICEF

特にアメリカの「Charity Navigator」は優秀で、寄付先の募金の使われ方がいろいろな側面からどの程度有効なのかということを計算してくれています。日本にもこういうものがあるといいですね。